【若干ネタバレ】それでも、「喪失感」を乗りこなす。~ドライブ・マイ・カー鑑賞所感~

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昨年夏の公開時は気になりつつタイミングを逃し見られずじまいだった。

が、この度のゴールデン・グローブ賞受賞により、リバイバル公開となったため、先日旦那さんと見に行った。

 

話題作とあって、ここ最近ご時世柄、いう程映画館の混雑というものに遭遇していなかった。しかし今日は違う。一地方都市でありながら、満席も満席。補助席を準備しなければならないくらいの大盛況の中上映が始まった。

 

若干のネタバレを含みます。ご了承ください。気になさる方は読み飛ばし下さい。

 

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映画の冒頭は艶めかしい男女の肉体関係と不可思議な夢の話が語られるところから始まる。
タイトルにあるような「運転シーン」はどこへやら。この冒頭3、40分はそういうシーンが多く、全編こんな感じだったらちょっとしんどいなあと思っていたが、そんなことはなく話が展開され、正直安心した。

 

主人公・家福はもとより、とりわけドライバーのみさきの境遇について、毒家族の下で生活をしてきた私には何となく他人には思えなかった。

 

いわゆる毒親の下で不本意ながら卓越した運転技術を体得せざるを得ず、また精神疾患を患っていた母親の別人格が唯一の友人であったことを北の故郷で語るシーンは胸につまされるものがあった。
その「毒をもった」母親は土砂災害によって命を落とすが、「母親を死なせたのは自分のせい」だとみさきはずっと抱えていた。

方や主人公である家福もまた娘を亡くし、さらに妻を亡くしている。
妻を亡くしたのは自分が早く帰宅をしなかったから。それに加え、生前良好に築いていたはずの妻との関係性においてやりすごしてしまっていたことがあったという背景もある。

家福もまた、みさき同様に「妻との間に起こってしまったこと、死なせてしまったことは自分のせい」だと自分の中で抱えて生きてきた。

あらゆる「喪失」を抱えてでも、もがいて自分自身を見出さねばいけない。

 

 

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「人という生き物は、人である以上誰もが何かしらを抱えて生きている」と思わせるような、そんな間合いが随所に感じられた。

 

「物語」は良いものだと実感しつつ、帰宅した後、「原作の短編が入ってる本を持ってるよ」と旦那さんが渡してくれたので、読んでみる。

 

この短編がよくもここまで映像作品として広がりを持たせられたものだと感心した。
原作の設定と映画の設定は違ってはいるが、要所要所のポイントは確実に押さえられており、「監督は随分この行間を読み解かれたのだな」と思わせるそんな原作の展開だった。

 

特にドライバーである「みさき」の人物描写に相当腐心なさったのだろうということは映画を観終わってすぐでも感じたことではあったが、原作を読むと尚更だ。
そして、冒頭のしつこい位の「肉体関係の描写」と「語られる不可思議な物語」は物語の展開上必要不可欠であり、あの描写は至極全うなのだなということを実感できる。

そもそも「読者の想像を掻き立て、行間にある感情を読み解く」のが村上春樹の作品なのだろうと思っているが、それを見事に実写として表現されたのだなと思うと胸が熱い。(実際はそんなに読んだことはないので大層なことを言える立場ではないが。)


映画自体は3時間。長時間ではあるが、そんなことを微塵も感じさせない。
後半に緊迫する車内シーンもあるが、そのシーン以外の殆どは心地よいドライブシーンとロケーション込みの引きのシーンは見ていて気持ちが良かった。

 

「演劇祭」という独自設定の中でダイバーシティを踏襲をしていて、各賞受賞・ノミネートされるのも請け合いの納得の仕上がりというのが率直な印象。

 

 

アカデミー賞ノミネートで今後もリバイバル公開は延長されることが見込まれる。
これから観られる方は是非原作の短編を読んで見比べて見られることを超個人的にお勧めして、映画の感想とする。

 

dmc.bitters.co.jp

 

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