点数のつけられない日々〜すこしとおくへ2

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天気がすこぶる良かった少し前のある日、この陽気が勿体無くて、類に漏れずまた思い立ち、少し遠くへ車を走らせた。
定期的に訪れる、「海を見たくなる病」である。

 

とある海沿いで、早咲きの桜がシーズンだと聞いた。
お昼前ではあったが、おにぎりと飲み物を買って、そちらに向かってみることにする。

今回の少しは「少し」で済ませられるかどうかは微妙な距離感だ。
しかも途中から行き慣れない道を走ることになる。
多少の不安を抱えつつ、もう私の頭は「海を見に行く」ことに切り替わっていた。

 

車をどんどん走らせる。
目的地付近に来たものの、余りそういう風情か感じられないので、やむなくその先の海沿いの田舎道を進む。

 

道を進むとようやくそれらしき場所に遭遇する。

 

この海沿いは相当な名所らしい。
色鮮やかなコントラストは確かに素晴らしかった。

 

狭い道にも拘らず、対向車がどんどんすれ違っていく。
カメラを構える人々も多く、路上駐車もかなりの台数だ。
いつもなら近隣の広場が駐車場として開放されるらしいのだが、このご時世もあって、どうやら敢えて「解放しない」という方向性のようである。

 

私もこの風景をスマホカメラに押さえたかったが、既に相当な路駐台数だったため、気持ち的にかなり憚られる。よって通りすがるだけにした。

 

通りすがりで眺められたとは言え、少し残念な気持ちもありつつ、それなりに目的は達せられたので、このまま元の道へ切り返し、帰ろうとした。
が、狭小の田舎道。おまけに大量路駐。切り返しポイントがまるでない。

 

これは困った。
切り返せないなら、とりあえず走らせるしかない。
先に向かえば、とりあえず自宅方面に向かえる国道にたどりつけるようだ。
しかし、とりあえず飲み物しか飲めていないので、どこぞで車を停めて、お腹の中におにぎりを入れたい。
…というか、慣れない狭小田舎道でかなり疲れてもいることもあり、とりあえず休みたい。
そうしてヒヤヒヤしながら運転しつつ、とある展望台駐車場を見つけた。しかも空いている。とりあえずここで休憩することにした。

 

1時間程度の運転ですむところが、気がつくと2時間くらい運転していた。そりゃ疲れるはずだ。

 

とりあえず、車から降りて、伸びてみる。
外の空気はやはり良い。

 

ふとそばにあった看板に目を配る。
展望台まで500mだか600mだか書いてある。

 

「5、600mそこらなら登ってみよう」

 

ふと思い立ってしまったのだ。
その時の私はこの後に訪れる地獄に何にも気がついていない。

 

食べるはずのおにぎりはどこへやら。
気がついたら、歩みを進めていた。

 

……

 

「なんで登ってしまったんや…」
200mほど進んだ所にあるベンチで休みながら頭に掠める。

 

距離がさほどではない代わりに、想像以上に勾配がきつい「山道」だったのだ。
空きっ腹な上、何も食べずに登ってしまったことを後悔した。
せめて飲み物でも有れば…
駐車場に車を停めた時点で、水を飲んでいただけマシだったが。

既に地獄である。

いっそ引き返そうとも考えたが、
本来の目的であった海をまだちゃんと眺めていない。
こちとら、通りすがりでチラ見しかしていないのだ。
こうなりゃ、もう海を眺めるまで帰れない。

 

こうしてタチ悪く意地が勝ってしまった。
呼吸を整えて、急勾配の山道に挑む。
運動不足でゆるゆるの身体には堪える。

 

行けども行けども、山道。開ける気配がない。
進んでは止まり、進んでは呼吸を整え、ようやく展望台が見えた。
辿り着くまで30分以上は掛かっている。運動不足の脚は既にガクガクだ。

 

ただ、肝心の海は展望台の上まで登らないと見えなかった。
すぐに上まで登る気力は流石にないので、展望台のコンクリート基礎に座って暫く休むことにした。

 

座って脚のガクガクが治まったことを見計らい、満を持して展望台の上まで目指す。

 

眼前に広がる海。
苦労して登った甲斐があった。
素晴らしい眺めだ。
そう、こういう海を私は眺めたかったんだ。
ようやく目的は達せられた。

 

目的を達して満足した束の間。
当然ながら苦労して登った急勾配を今度は降りて行かないといけない。
登りの時点でガクガクしている脚で降りるのは不安でしかなかった。山道だし、転びそうだった。足元を探り探り、膝への負担を恐れながら慎重に降りて行く。
もう少し若くて、そうでなくても、もう少し体力があればスルスル降りて行くのだろうが、そうはいかない。
登る時間の半分で駐車場まで降りてこれたが、脚は登った時以上ににガクガクで、すぐには車は出せなかった。

 

とりあえず、水を飲み、自らお預けを食らわせたおにぎりを頬張る。
美味。
散々動いた後なので身体に染みる。

 

少しお腹に入れてホッとした。
さあ、これからまた自宅まで運転しなければならない。ヤバいくらい動かした脚で、行きの運転と同じ時間運転しなければならない…こうなってくるともう気力でどうにかするしかない。
やはり来た道を戻るより、進行方向はそのままに国道へ合流した方が楽な上、早そうなので、そのようにする。

 

途中渋滞に巻き込まれつつ、行きの運転の倍近く掛かって何とか自宅までたどり着いた。

 

昼前に出て、帰ったのは既に日が傾きかけていた。
「ちょっと遠くへ」行くつもりが、そこそこの日帰り旅になってしまった。

 

まあ、こういうこともあろう。
ただ、言うほど若くはない。
自分の体力等はしっかり考慮しないといけないと強く心に誓うのだった。

 


この後、ふくらはぎの筋肉痛が引くまで5日も掛かってしまい、自転車には乗れず仕舞いだったことも併記しておきたい。