「不安定で不自由」をどう生きるか~昔も今もぶれない五味太郎氏に感銘を受けた話~

とうとう全国的に緊急事態宣言が出されました。
じわじわと身の危険が迫りつつあるように感じます。

 

そんな中で、少し前に話題になったインタビューが記事があったのはご存じでしょうか。

かの絵本作家、五味太郎氏のインタビューです。

 

五味太郎さん「コロナ前は安定してた?」不安定との向き合い方

五味太郎さん、不自由さへの直言「自由なんてのは存在しない」

 

懐かしい。相変わらず静かに、そして的確に今の世の中を眺めていらっしゃる。

「コロナ禍の前までは安定してた?居心地はよかった?」
という、冒頭からのインタビュアーへの逆質問は、実に的を射ていて、何ともたまらないものを感じてしまいました。

 

普段から感じてる不安が、ひるがえってコロナに移っているだけじゃないかな。もっと言えば、不安とか不安定こそが生きてるってことじゃないかな。


本当にその通りで、世相的に新型肺炎が世界的に流行りだす前からずっと不穏な空気がなかったわけではないというのは、比較的穏やかに暮らそうと心がけている私でも感じていることで、
それがたまたま重なって、ずっとあった不穏な空気が増幅されて際立ったのだろうなという認識があります。

 

これ以外も氏は記事内で言及されていましてね…。

 

グローバルグローバルって言っても、心でグローバルしてたんじゃなくてお金がグローバルしてただけなんだなとしみじみ思うよね。

自由なんてのは存在しなくて、あると思うから不自由を意識しちゃう。誰でも引力や天気にあらがって生きてるわけだし、鳥は自由でいいななんて言うのは、鳥の大変さ、不自由さをわかってない人。不自由なのは前提だもん。限られた材料や選択肢の中で、悩むしかない。


実に痛快です。
どちらの意見も私自身が薄らぼんやりと感じていたことだったので、ちょっと楽しくなってきました。
(私自身「本当の自由は自分の頭の中にしか存在し得ない」と考えているタイプ)

 

そんな五味太郎氏を知ったのは、訳あって某都市でカツカツの一人暮らしをしていた20代の頃。

お金のない私の唯一の娯楽が「図書館で本を借りて読む」ということでした。

何気なく新刊本の棚を眺めていたその隣の棚に、たまたま児童書を集めた書架がありまして、何気なく見かけて手に取った「ことわざ絵本」で氏の存在を知ります。

そして、その本で氏の魅力を知ることになるわけですが、さらにその並びの先にあった「ヤングアダルト」コーナーで、偶然目に飛び込んできたのが「大人問題」という本でした。類にもれずタイトルに惹かれ、そのまま借りて帰りました。
その当時は、同年代よりあらゆる経験は積んでいるつもりで高を括っていましたが、まだまだ私は何も知らないのだなと読んで思い知らされたのが、その本だったのです。

 

今回の前半の記事でこんなことをいわれています。

心っていう漢字って、パラパラしてていいと思わない? 先人の感性はキュートだな。心は乱れて当たり前。常に揺れ動いて変わる。不安定だからこそよく考える。

 

これは「大人問題」の中でも触れられていて、 

「心」っていう字、好きです。あの形。「権」とか「軍」なんて字はみんながっちりくっついているけれど、「心」ってパラパラしてる。はじめっから乱れている。心を乱すなというのは、心をやめなさい、ドキッとかハッとかモゾモゾっていうのをやめなさいということです。*1

 

この節を始めて読んだとき、ものすごく衝撃を受けたことを今でも鮮明に思い出します。
いつも何かに怯えて、「しっかりしなければ」と思い続けるのが辛く、色々と心の整理を図り始めていた頃だったので、目からうろこがボロボロ落ちる感覚で、ものすごく気持ちが高まったほどでした。


それから数年後、たまたま訪れた古書店で見つけてしまい、当時のあの感覚が蘇って衝動買いしたほど。

 

20年以上前に発刊されたこの本なのですが、今読んでも全くぶれていません。
そして、今回のこの記事なわけです。
すごい…単純にすごい……!

 

あれから私も年齢と経験を重ねて、あの当時はすんなり受け入れられていたことがそうでもなくなっていたりもして、
随分カチカチの大人になってしまっているなあと、改めてこの本を読み返してみて感じます。
(当時からすると、色々と取り巻く状況が激変しているということもあるかもしれないけれど。)


氏の「心が不安定で揺れ動くこと」を「当たり前のこと」ということを前の前から言及しているというブレない認識と、
今回の記事内でそういうものだと認めたうえで、「自分の頭で考え」、「適宜サボる」ことを提案されたことは、
今とこれからを生きていくための指針の一つになるのではないかなあと何となく思うのです。

 

そして私は、この記事を読み、不安定な状況の中で、静かに不自由さの中でモヤっとしながらも、
色々と自分なりの模索をしながら生きていくことは決して間違いではないということを後押ししてもらったようで、
少しだけ晴れやかになったような気がしたのでした。

 

 

*1:大人問題p50より